
歯の治療後に必要となる「つめ物」や「かぶせ物」。これらは総称して「補綴物(ほてつぶつ)」と呼ばれます。
「銀歯と白い歯は何が違うの?」「保険と自費、どう選べばいいの?」そんな疑問をお持ちの方へ、この記事では補綴物の違いや特徴を分かりやすく解説します。自分に合った治療を選ぶヒントとして、ぜひ参考にしてください。
目次
補綴物とは?

虫歯や外傷で歯が欠けたり、抜けたりした部分を補う人工物のことを「補綴物(ほてつぶつ)」といいます。
大きく分けて次の3つがあります。
- インレー(つめ物):歯の一部を補う
- クラウン(かぶせ物):歯全体を覆う
- ブリッジ・義歯・インプラント:歯がない部分を補う
今回は、特につめ物・かぶせ物に使われる代表的な材料とその違いについてご紹介します。
補綴物の種類とその違い
歯の治療は、保険診療と自費診療の二つに大きく分けられます。

保険診療
主に金属(銀歯、金銀パラジウム合金)やプラスチック(レジン、CAD/CAM冠)が使用されます。保険が適用されるため、自由診療に比べて費用を抑えることができます。保険診療は、費用を抑えられるのは大きなメリットの一つですが、素材や治療方法に制限があり、見た目や耐久性においては限界があります。
自費診療
保険適用以外の材料を使ったもので、主にセラミックを使ったものや貴金属が使用されます。自費の補綴物は保険治療に比べて高額になりますが、口腔内の悪影響を受けづらいため、虫歯が再発しにくいといった点や、審美性、使用感など、長い目で見ると歯を長持ちさせることができるというメリットがあります。
1. 保険診療で使える素材
◆銀歯(メタルインレー・メタルクラウン)

銀歯の素材は主に金銀パラジウム合金を用いて作製しています。金属のため耐久性があり、欠けたりすることなく長持ちします。しかし、金属アレルギーを引き起こす恐れや、長期間使用することで金属が劣化して溶け出して起こる歯ぐきの変色のリスクもあります。
- メリット:
- 治療費が安い
- 十分な強度があるため、奥歯など力がかかる部分に適している
- デメリット:
- 見た目が銀色なので、審美的な面で劣る
- 金属アレルギーのリスクがある
- 経年劣化で歯茎の変色(ブラックマージン)が起こる可能性がある
◆CAD/CAM冠(キャドキャム冠)

CAD/CAM(キャドキャム)とは、コンピューターでデザインし、コンピューターを利用して製作、Computer aided design/Computer aided manufactureの略です。歯の形を3Dで読み取ってデータ化し、コンピューター制御で歯の形に削り出します。CAD/CAM冠は、ハイブリッドレジンと呼ばれる、レジン(プラスチック)とセラミック(陶器)を組み合わせた素材を使用しており、白色のため銀歯に比べて審美性が高いことが特徴です。
- メリット:
- 金属アレルギーの心配がない
- 短時間で作成できる
- 自費治療に比べて治療費が安い
- デメリット:
- 色のバリエーションが豊富ではない
- 銀歯に比べて外れやすい
▷2024年6月CAD/CAM冠の保険適用対象が拡大!

CAD/CAM冠は、これまで無条件で保険適用となるのは前歯から第二小臼歯(中央から数えて1~5番目の歯)でした。2023年12月の改定で、新しく大臼歯用のCAD/CAM冠用材料(Ⅴ)が保険適用となり、2024年6月の改定では、これまで条件が合わずCAD/CAM冠を作ることができなかった大臼歯(親知らずも)を含め、一定の条件つきでほぼすべての歯に保険適用でCAD/CAM冠を入れられるようになりました。
2. 自費診療で主に使用される素材
◆オールセラミック

金属を一切使わない、セラミック(陶器)素材のみで作られた補綴物のことです。色合いや形などの自由度が高いことが特徴です。オールセラミックで作られたかぶせ物は、色調と質感が特に優れていて、透明感があります。しかし、陶器で作られているので、強い力が加わると割れることがあります。
- メリット:
- 金属アレルギーの心配がない
- 自然な透明感と美しさ(天然歯に近い色調)
- 変色しにくい
- デメリット:
- 強い力が加わると割れるリスクあり(特に奥歯)
- 費用が高額
◆ジルコニア

セラミックの一種で、高い強度と審美性を兼ね備えた素材のことです。白いダイヤモンドと呼ばれるほど非常に強度に優れており、人工関節などにも使用される丈夫で人体に安全で親和性の良い素材です。特に強い力がかかる奥歯の治療や、自然な色合いを求める前歯の治療に適しています
- メリット:
- 金属アレルギーの心配がない
- 非常に高い強度と耐久性がある
- 奥歯にも適用可能
- デメリット:
- オールセラミックよりやや審美性が劣る(透明感に欠ける)
- 費用が高額
◆メタルボンド

金属のフレームにセラミックを焼きつけた補綴物です。内側が金属であるため非常に強度が高く、自然な見た目と耐久性を兼ね備えているため、特に奥歯の治療によく用いられます。メタルボンドにはセラミックが使用されていますが、オールセラミックと比較すると色調がやや劣ります。
- メリット:
- 強度と美しさを両立
- 前歯・奥歯どちらにも使える
- デメリット:
- 金属アレルギーのリスクがある
- オールセラミックよりやや審美性が劣る
- 経年劣化で歯茎の変色(ブラックマージン)が起こる可能性がある
◆ゴールド(高カラット金合金)

歯とのなじみがよく、適合性に優れています。錆びにくく、金属の溶け出しが少ないため二次虫歯(一度虫歯治療した歯が、詰め物や被せ物の下で再び虫歯になること)や歯茎の変色、金属アレルギーになりにくい素材です。とても身体に優しい素材なので、健康面を重視されてる方やセラミックより耐久性を重視したい方におすすめです。
- メリット:
- 身体に優しく、適合性が非常に高い
- 再治療リスクが少ない(長持ちするため)
- 金属なので強度が高い
- デメリット:
- 金属色で見た目が目立つ
- 費用が高額
- 熱伝導性が高いので、熱い飲食物や冷たい飲食物に過敏になる場合もある
◆e-max (イーマックス)

二ケイ酸リチウムガラスセラミックという素材を用いた、審美性の高いセラミック補綴物です。他の種類のセラミックよりもガラスのように天然歯に近い色調と透明感があり、奥歯にも使用できる強度があります。金属アレルギーの心配もなく、長持ちするのが特徴です。
- メリット:
- 天然の歯より美しく仕上がる
- 天然の歯と同水準の硬さがあるため耐久性に優れている
- デメリット:
- 土台となる自分の歯が変色していた場合や隣の歯が別の被せ物をしていると、アンバランスにみえることがある。
- 強い力が加わると割れるリスクがある
補綴物の選び方のポイント

補綴物(詰め物・被せ物)を選ぶ際には、見た目・強度・健康面・費用・使用する歯の位置など、いくつかのポイントを総合的に考えることが大切です。歯は生活の充実度にも関わる大事な体の一部です。長期的な目線でご自身に合った最適なものを選ぶようにしましょう。
重視する点 | おすすめの素材例 |
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見た目(審美性) | オールセラミック、e-max |
強度 | ジルコニア、ゴールド |
費用 | 銀歯、CAD/CAM冠 |
アレルギー対策 | オールセラミック、ジルコニア、e-max、CAD/CAM冠 |
長持ち | 自費セラミック系の素材全般 |
まとめ:補綴物選びは「未来の健康」への投資です

補綴物は、ただ「歯を補うためのもの」ではなく、その後の口腔内の健康・美しさ・快適さを長期間支える大切な治療です。素材や治療法の選び方ひとつで、将来的な虫歯の再発や歯の寿命、噛み合わせ、さらには全身の健康にも影響を与えることがあります。
長期的に見て、自分に合った補綴物を選ぶことで再治療のリスクが減り、結果的に費用も抑えられることがあります。1つの観点だけでなく総合的なバランスをみて選びましょう。
鳥居おとな・こども歯科ではカウンセリングを通じて、患者さま一人ひとりに適した補綴物をご提案しています。お口のことで気になることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
記事監修 Dr.鳥居 健二
鳥居おとな・こども歯科クリニック
院長 鳥居 健二